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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)1038号 決定

被疑者 本間久士

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨および理由は準抗告申立書および準抗告申立補充書記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

(一)  事実調の結果によれば

1、被疑者本間久士は、傷害被疑事件により昭和四八年九月七日代用監獄である警視庁高輪警察署留置場に勾留され、同時に刑訴法三九条一項に規定する者以外の者との接見を公訴の提起に至るまで禁止されたこと、

2、申立人は弁護士であつて、同月七日付で被疑者本間久士の弁護人に選任され、その旨担当検察官に届出がなされたこと、

3、申立人は同月一〇日午後七時ころ、検察官に事前に連絡することなく突然高輪警察署を訪れ、被疑者本間久士の弁護人として同被疑者に接見したい旨申し入れたところ、当日の同署宿直責任者刑事課勤務、警部補鈴木勝男にこれを拒否されたこと(なお申立人は拒否処分者を警察官青木某としているが誤りと認められる)その際申立人は弁護士バツジをつけず、名刺、検察官の発するいわゆる接見に関する具体的指定書、その他自己が被疑者本間久士の弁護人であることを示す積極的資料を提示しなかつたこと、

がいずれも認められる。

(二)  被疑者について、前記のような接見禁止決定がなされている場合、その身柄が留置されている代用監獄の責任者としては、接見を求めている者が刑訴法三九条一項の規定に該当する者であるか否かを確認する責任のあることは言うまでもないことであり、この場合、接見を求める者は当該代用監獄の責任者に同条項の有資格者であることが、すでに極めて明白であると考えられる場合を除いて、自らその有資格者であることを証する一応の資料を積極的に提示して接見を申し入れるべきであつて、有資格者であるか否かを確認する資料の収集をすべて代用監獄の責任者に委ねるのは妥当ではない。

(三)  しかるに本件では、申立人は接見申し入れの際、弁護士バツジをつけず、名刺、検察官の発する接見に関する具体的指定書(同書面による刑訴法三九条三項の接見に関する指定の適否の問題は、さておき当該書面を接見申入者が持参していることは刑訴法三九条一項の有資格者であることを証明する有力な資料となることは否定できない)その他自己が被疑者本間久士の弁護人であることを示す積極的資料を提示しなかつたことは前認定のとおりであり、さらに事実調の結果によれば当日の前記宿直責任者鈴木警部補は接見申入者が被疑者本間久士の弁護人であるかどうかについて担当の東京地方検察庁の関場大資検察官に電話照会もしてみたが同検察官がすでに退庁後であつて連絡がとれなかつた事実も認められ、結局鈴木警部補は以上のような事情から接見申入者が同被疑者の弁護人であるか否かはもちろん、同人が弁護士であるか否かをも確認することができないとして本件接見の申し入れを拒否したものであることが認められる。

申立人は本件接見申し入れ以前の同月八日にも一度、高輪警察署を訪れ、その際自己の名刺も提出してあり申立人が被疑者本間久士の弁護人であることを熟知している者が本件当日も同署に在庁しており、その点については特段の問題はない旨主張するが、右主張のような人物が在庁していたことを認めるに足る資料はなく、前記のように鈴木警部補が担当検察官に電話照会している事実、その他事実調の全趣旨からして、申立人が被疑者本間久士の弁護人であることが、本件代用監獄の責任者にすでに極めて明白であり、その点について問題がなかつたと認めることはできない。

(四)  以上認定の事実関係のもとでは、鈴木警部補が、申立人が刑訴法三九条一項の規定に該当する者であるか否かを確認し得ないと判断したのはやむを得ないものと言うことができ結局申立人は鈴木警部補の右判断のもとに接見禁止決定をうけている被疑者との接見を拒否されたことに帰し、申立人の本件拒否処分の取消を求める申立は理由がなく、その余の申立は右拒否処分が違法、不当により取消されることを前提とするものであるから申立自体失当となり、結局本件準抗告の申立は棄却を免れない。よつて刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

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